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執筆者の写真真事 田中

『介護民俗学へようこそ!』〜「スマイルホーム」の物語〜六車由実著


 六車さんが「驚きの介護民俗学」を出版して3年半。小さなデイサービスである「スマイルホーム」に責任者として移って3年。六車さんの提唱する「介護民俗学」は、介護現場のプロから、「利用者をネタにした金儲け」「介護現場を食い物にした民俗学研究者」などの心ない非難を受けながらも、試行錯誤を重ね、利用者だけでなく、その家族やともに働くスタッフをも巻き込んで、常識破りのよりよい介護現場を築きつつある。

 本書で、特に感銘を受けた箇所を以下に記す。

◎食事介助は奥が深い。

 認知症患者の食事介助は苦痛だ。そう六車さんは正直に告白する。その苦痛を好きになるには、味を舌で想像しながら、ともに味わいながら食べるかのように介助することだ。だれでも、認知症の人であっても、一人で食べるのは苦痛だ。食を共にするということは、おいしさや喜びを分かちあうこと。食事介助もそれと同じだと、六車さんは気づいたという。

◎「私を抜きに私のことを決めないで」。

 スコットランドでは、認知症の人の置かれた現実や偏見を話しあう場に、認知症患者が参加する。話しあった結果が認知症政策に反映される。そういう仕組みがある。人としての尊厳がないがしろにされている社会では、ないがしろにされる側の絶望や傷は深い。

◎認知症の人の物語を共有する創造性。

 患者が語る世界を、たとえ妄想であっても素直に受け入れ、その世界を創造性のある豊かなものとして一緒に楽しむ。そう六車さんは言う。彼女と似た視点を持つ人に、坂口恭平さんがいる。『徘徊タクシー』という小説の中で、坂口さんは、「この世にボケ老人なんていない。彼らは記憶の地図をもとに、時空を超えて歩いているだけなんだ」と書いている。

◎「老い」が価値

を失った社会。

 老いが尊敬された社会は、「経験」が尊重された時代であった。近代社会は、機械化・自動化・分業化による能率性向上が優先され、長年培ってきた経験知より、技術知(テクノロジー)が優先される。そういう社会では「老い」は衰退であり、「経験」は価値を失う。つまり、「成熟」には価値がない。成熟した大人になり、老いていくことに価値を見いだせない社会に未来や希望はあるか。介護の現場はまさに今日の社会の縮図だ。

よりよい介護をめざして戦い続ける六車さんの本に接して、自分のインタビューも、話し手と真摯に向きあわねばとあらためて思わされた。


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